転職を考え始めたきっかけは、会社そのものが嫌いになったからではありませんでした。
むしろ、人間関係には恵まれていて、仕事もそれなりに楽しく、周囲から見れば「辞める理由なんてない」と思われるような職場だったと思います。
それでも、三十代半ばを過ぎた頃から、毎朝出勤するたびに「このまま十年後も、同じ仕事をしているのだろうか」という疑問が少しずつ大きくなっていきました。
担当していたのは営業事務で、社内の調整や資料作成、顧客からの問い合わせ対応など、幅広い仕事を任されていました。

そんなある日、仕事帰りに友人と食事をしていたとき、「転職するなら、今の自分に何ができるか占ってもらうのも面白いんじゃない」と言われました。
私はそれまで占いを本気で信じたことがなく、転職は条件や経験を比較して、合理的に決めるものだと考えていたからです。
そこで、「今の環境から逃げるためではなく、今まで身につけた調整力を別の場所で活かす転職を考えるとよい」と言われました。
さらに、「すぐに会社を辞めるより、まず自分が評価される場所を探してから動いたほうがいい」と言われました。
不思議なことに、その言葉を聞いた瞬間、頭の中が少し整理されたような気がしました。
それまでは、「転職するか、今の会社に残るか」の二択しか考えていませんでした。
しかし、占いをきっかけに、自分の経験を一度棚卸ししてみようと思ったのです。
過去に担当した仕事を書き出してみると、私は単純な事務作業だけではなく、営業と制作部門の間に入ったり、納期が厳しい案件を調整したり、新人が困っているときに業務を教えたりしていました。
自分では当たり前だと思っていたことが、別の会社では強みになるかもしれないと気づきました。
そこで求人サイトを眺めるだけではなく、「社内調整」「顧客対応」「営業サポート」「業務改善」といった経験が活かせる求人を中心に探し始めました。
ところが、実際の転職活動は順調ではありませんでした。
最初に応募した会社は書類選考で落ち、次の会社では一次面接まで進んだものの、最終的には不採用でした。
それまで私は、「自分は長く働いてきたのだから、経験を評価してもらえるだろう」と少し甘く考えていたのだと思います。
さらに、現職では周囲から頼られることが多かったため、「今の会社を辞めてしまったら、自分には何も残らないのではないか」という不安まで出てきました。
そんなとき、最初に占ってもらったときの「今まで身につけたものを別の場所で活かす」という言葉を思い出しました。
私は応募先を増やすことよりも、自分の経験を相手に伝える方法を変えることにしました。
職務経歴書には担当業務を並べるだけでなく、「複数部署との調整で納期遅延を防いだ」「問い合わせ内容を整理して対応時間を短縮した」など、具体的な行動を書くようにしました。
面接でも、「事務ができます」と答えるのではなく、「周囲の状況を見ながら仕事を整理し、関係者が動きやすい状態を作ることが得意です」と説明するようにしました。
すると、ある企業の面接で、「まさに今、そのような人を探しています」と言われました。
最終的に採用されたのは、これまでとは業界が少し違う会社でした。
給与は大幅に上がったわけではありませんが、業務改善や社内プロジェクトにも関われる環境で、これまでの経験を広げられることが決め手になりました。
それでも、以前の私なら条件だけを見て迷っていたところを、「この場所で自分の経験をどう伸ばせるか」という視点で考えられるようになっていました。
転職して半年ほど経った頃、以前の職場で身につけた調整力が新しい会社でも役立っていることに気づきました。
部署間の意見が食い違ったときに話を整理したり、忙しい人の仕事を先回りして確認したりすることで、少しずつ周囲から頼られるようになりました。
そして何より変わったのは、仕事に対する自分の気持ちでした。
以前は「このままでいいのだろうか」と考えながら働いていましたが、今は「次は何ができるだろう」と考える時間が増えました。
転職は、必ずしも給料や肩書きを大きく変えることだけが成功ではないのだと思います。
自分では見えていなかった経験の価値に気づき、それを活かせる場所へ移ることも、立派な転職成功なのだと感じています。
今回の経験で学んだのは、転職に迷ったとき、いきなり答えを出そうとしなくてもいいということです。
私の場合、占いが直接転職先を決めてくれたわけではありません。
ただ、自分の経験を見直すきっかけをもらい、今まで「当たり前」だと思っていたことを強みに変えることができました。
もし今の仕事に大きな不満はないけれど、将来に少し不安を感じている人がいるなら、まずは自分が何を積み重ねてきたのかを書き出してみることをおすすめします。
私にとって転職は、今の会社を捨てることではなく、これまでの自分を次の場所へ連れていくための一歩でした。

